「ただいま」
なんか、反応がない。
帰ったよー。
居間のソファで、母が居眠りをしている。
今日は少し遅くなるからって、昼間連絡しておいたのに。
ようやく目を覚ますと、「おかえり」って。
味噌汁を温めはじめた。
あとは勝手にやるから、もう休んだら?
これと同じことが、二十数年前に。
父が亡くなってから
夕方から夜にかけて、ひとりぼっち。
姉は大学受験で夜遅くまで予備校。
教員の母は学期末、年度末には遅くまで職員室。
母の帰宅を、一日千秋のように、
恋人を待ち焦がれるように、ひたすらに。
夕食の準備を済ませて、やがて食卓で居眠り。
決まって、帰宅した母に揺り起こされる。
母の顔を見て、思わず涙ぐむこともあった。
いま、母は教員を退職し、一日、自宅にいる。
あの時の自分のように、
私の帰宅を心待ちにしているのかもしれない。
ふたりだけの家族。
そう思うと、早く、母を安心させてあげたい、と
思わずにはいられない。
涙が自然に、溢れてくる。あの時のように。
もう少し、待っててね。
心配かけて、ごめんね。
