17時半。
定時過ぎて。
でもいま時期、むしろこの時間からが
ザワザワしてくる、わが営業部。
高木さん…?
あれ、どこいっちゃったんだろ。
さっきまで自席にいたんだけど。
聞きたいこと、あったんだ。
まあいいやと思って、
印刷室に用紙取りに。
あ。
高木さん、いらした。
休憩室でひとり、缶コーヒー飲んでる。
陽の暮れた外の景色見ながら。
「お疲れ様です、高木さん。ご休憩中のところ、すみません。」
要件を話して、私も自席へ戻ろうとすると。
「大野さん、いつもいろいろありがとう。半年後にはボクもういないけど、よろしくね。」
そうか。
山本さんと違って、
高木さんは再雇用組じゃなくて、
退職するんだった。
「…は、はい。」
次の言葉が見つからなくて、言い淀んでいると。
「いま、いちばん仕事が楽だなあ。年度末突入で、体はもうガタガタいってるけどね。」
「…はあ。」
言葉が継げないのは、高木さんから、
深ーい、哀愁のようなものを感じてしまったから。
寂しそう、っていうのでもなく、
悲しそう、ってわけでもなく。
あえて言葉にすれば、
…男のロマン?(笑)
やっぱりそこは、おじさま好きの私だけど(笑)、
高木さんは全然、対象外。
…だったんだけどね。
「いま楽だなあって思うのは、もう先のこと、考えなくていいからかなあ。何か新しいスキルを身につけたり、新製品の性能や特徴も、もう勉強しなくていいんだなあ、なんて。」
ふだんは若手にイジられてばかりの、
のんびり屋のおじさま。
でも、渋いよ、渋い。今夜の高木さん。
男性の、歳を重ねた「厚み」を感じた。
誰が言ったのか知らないけど、
まさに「いぶし銀」って感じ。
「まだまだ、がんばってもらいますよ、高木さん。頼りにしてるんだから。」
「ありがとう。若いときに、大野さんみたいな女性と知り合いたかったな。」
…こらこら、奥様にとても失礼。
でも素敵なおじさま高木さん。
今夜は、ちょっと見直しちゃった。
…なんてね。
