それじゃだめじゃんよ!

あー、また、もう。


篠原さんと、ベテランの大島さんが───。


「篠原さん。島谷さんのお客様の注文分、あなたこれ発注してくれてたの?」

「はい。しておきました。」

「したらしたで、ちゃんと報告してって、いつも言ってるでしょ。」

「chat*で送って回答しています。よく見てください。」

「ちょっと口頭で報告してくれてもいいでしょ? そういうコミュニケーション大事だって、習ってこなかった?」

「情報のやり取りはできる限り、データで残していつでも見返せるようにと思っています。」

「何でもパソコンで答えてきて…。私と話したくないだけでしょ。」

「はい。そうかも知れません」

「何ですって?」


ふたりの間に割って入る。やりとりは耳に入っていたから、とくにあらためて確認はせず。


篠原さんには、コミュニケーションという意味でも、確認という意味でも、口頭で伝達できるときは口頭も併用を、大島さんには、面倒でも社の公式のツールをもっと活用して業務に役立ててもらうよう促す。


「!」

首から下げる名札が飛んできて、

篠原さんのPCに命中した。

「ちょっとお手洗いに行ってきます」

名札には笑顔の写真の篠原さんの社員証があった。


みんな、唖然として。

大島さんが憤って。

「大野さん、もうどうにかならないの、あの子。もっと基本的なことから教えていかなきゃならないのかしら。挨拶とか、報連相とか。…みんなもそう思うでしょ?」


彼女以外の人は、はいともいいえとも答えず、ただ困惑した表情で。


「ちょっと時間下さい。高畑さん、外しますけど、よろしくお願いします」

「はい、わかりました」

高畑さん、いつになく厳しい表情で。丁寧語だし。


篠原さん。


フロアに帰ってきたところを捕まえて。

商談や打ち合わせ用のブースに入って、向き合って座る。


「どうしてこうなったのか、あらためて聞かせてもらおうかな、

さっき聞こえてはいたけど。あとで大島さんにも聞くから」

その内容は、冒頭の会話のとおり。


篠原さんは淡々と。

「私は異動してきて、初めてのことばかりだったけど、仕事はひと通り覚えて、遺漏なくおこなっています」

…イロウなくって、難しい言葉ね。


「その仕事は誰が教えてくれたの? 高畑さんとかでしょ。」

「はい、でも大島さんじゃありません。あの人よりかはもうすでに仕事ができています。あの人たちは私の何が気に入らないのか、よくわかりませんが、今の自分の働き方に自信はあります。」


フツフツと。

気持ちがざわめく。怒りなのか悲しみなのか呆れなのか同感なのか、よくわからないけど。


「仕事はチームでやるものだよ。営業さんだって、一人で稼いできたみたいな顔してる人もいるけど、そこには私たちのアシストや、社内の人事とか経理とかの他部署、メーカーや販社や、ひいてはご家族や、友達とか恋人とか、たくさんの人たちの支えがあってこそ、立派な数字があがってるんだと私は思う。だから、チームの和はとても大事だと思うんだ。何か問題があれば課長なり私なりに堂々と報告して。必ず対処して改善するから。でも自分勝手な判断でその和を乱すのはやめて。何でも相談して、ね。」


…って、ほとんど社内的な見解。リーダーのお仕事的な意見。

その一方、こんなんでいいはずがないと、呻吟するもう一人の自分。


「でももう、手遅れですよね。きっと。わかってますよ、私が跳ねっ返りで問題児で、みなさん手を焼いてるんだろうって。でも佐藤さんや大島さんには私は絶対に謝らない。絶対に」


「それじゃだめじゃんよ!」


会議机を両手でぶったたき、彼女を直視する。

涙がぼろぼろこぼれて、机の上に、落ちた。

(明日に続きます)

*chat…goo○leのコミュニケーションツールで、LINEのような機能。

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