───思えばあなたと私。

「大野さん、高木さんですけど、電話あったことをスマホにメッセージ送ったのにまだお客様に連絡してなくて、私が対応したからまた私あてに電話が入ってきてしまいました。」

彼女にしては冷静な口調で、篠原さん


「たまに同様のことがあるので、大野さんからもひとこと言ってもらえませんか。」


…?

「わかった、ごめんね。そう伝える。」


?と思ったのは。

彼女のスーツからの「におい」。


自分も含め、営業事務は私服で働いてる人が多くて、

今日の私もハイゲージニットにタイトスカート。


でも篠原さんはいつも、

パンツスーツをきちっと身にまとってる。


そのスーツから、

汗とほこりが混じったようなにおいがした。

そう、営業さんが夕方になって、

ひどく疲れて帰ってきたときのような。


…この子も、疲れてるな。


いつも小ぎれいにしてる彼女が、

身だしなみに気を使えないくらい、

日々の業務に追われている年度末。


疲れてる、なんて、そんなの

おくびにも出さない人だけど、

ちょっとした綻びから、

垣間見る疲労感。


張り詰めないで、少し肩の力、抜こ。


───思えばあなたと私。

一緒にここへ異動してきたのが昨年5月。

あなたは人事から、私が経理から。


ここまで。

ふたりの間には、いろいろあったよね。

憎しみ合うこともあったかもしれない。

あなたのことで、涙を流すこともあった。


でも今は、年度末を戦う仲間どうし。

あなたは。

強くて、頼もしく、可愛らしい「戦友」。


夕方。

高木さんご帰還。


篠原さんが喰らいつく。

「高木さん、ちゃんと私のメッセージ見てます?」

「ああ、見たけど忙しくて。ごめんね。」


自分で言っちゃってるよ。

まあ、それでいいんじゃない?

あなたらしくて。


私も。

この子と、もう少し

コミュニケーションを取ってみよう。


何たって、

同じ戦友どうし、だもんね。


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